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是真

柴田是真は、漆芸の神様として知られる一方で、幕末から明治にかけての浮世絵においても、極めて異質な、しかし重要な足跡を残しています。彼は若き日に「江戸の三筆」の一人と称された鈴木南嶺に学び、さらに京都で四条派の写生術を習得したことで、浮世絵師たちが得意とした「誇張」とは一線を画す、洗練された写実力をその画風の根底に据えていました。

是真が浮世絵の分野で特にその才能を発揮したのは、摺物の世界です。彼はそこで、単に絵を摺るだけでなく、漆芸家としての感覚を版画に持ち込みました。例えば、絵の一部を盛り上げる空摺や雲母摺を駆使し、紙の上に漆器のような立体感や質感を持たせることに腐心しました。彼の浮世絵は、多色摺りの派手さで勝負する当時の主流の浮世絵とは異なり、余白を大胆に活かした静謐な構図が特徴です。これは、浮世絵のポピュラーな情緒に、四条派の気品ある写生と、漆芸の緻密な構成力が融合した、是真にしか到達し得ない美学でした。

また、団扇絵や、連作の錦絵においてもその独自性を貫きました。是真の描く動植物や風俗は、歌川派のような劇的な演出は少ないものの、まるで生きているかのような瑞々しさと、思わず触れたくなるような質感を湛えています。清方が後に「明治の情緒」を求めて是真の作品を愛蔵したという事実は、是真が単なる工芸家ではなく、浮世絵の伝統的な技法の中に「洗練された近代的な絵画性」を吹き込んだ先駆者であったことを物語っています。
是真