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舟越 桂

舟越桂は、現代日本を代表する彫刻家であり、静謐な佇まいの中に深い精神性を湛えた木彫で、彫刻の概念を更新した作家です。彼は、戦後日本の具象彫刻を牽引した舟越保武を父に持ち、伝統的な木彫技法を受け継ぎながらも、全く新しい現代的な「人間の存在感」を提示しました。
彼の芸術世界を語る上で版画は単なる副業ではなく、彫刻と対をなす極めて重要な表現媒体です。彼は生涯を通じて数多くの版画を制作し、そこでは木を彫るのとはまた異なる、彼自身の深い思索と線の揺らぎが定着されています。

また、版画は彼にとって、彫刻で表現しきれない「言葉にならない感情」の実験場でもありました。彫刻では物理的な制約から困難な表現——例えば、風に吹かれるような髪の動きや、空中に浮遊するような不確かな存在感——が、版画の画面の中では自由自在に展開されます。彼の版画に登場する人物たちは、彫刻のモデルと共通する「大理石の瞳」を思わせる静かな眼差しを持っていますが、紙の上に定着された彼らは、より個人的で、内省的な独白を聴衆に投げかけているような親密さを湛えています。
興味深いのは、舟越が版画制作において「彫刻の完成図」を描くことは稀だったという点です。彼にとって版画は、別の次元で完成された自立した作品でした。版画という「間接的なプロセス」を経て生まれる像は、彼自身の意図を超えた偶発的な表情を見せることがあります。この「自分以外の力が介在する」という版画の性質が、舟越が追求し続けた「人間という不可解な存在」を描くための、最も有効な手段の一つとなっていたのです。
舟越 桂