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山高 登

山高登は、昭和から平成にかけて、変わりゆく日本の都市風景、特に「東京の坂道」や「下町の路地」を、慈しむような眼差しで描き続けた木版画家です。彼は文芸雑誌の編集者として働きつつ制作を続けた「日曜画家」としての出自を持ち、そのことが彼の作品に独特の、気取らない日常性と深い詩情を与えています。

山高の作品を象徴するのは、庶民の視線です。彼は、名所旧跡ではなく、名もない街角や、再開発によって消えゆく古い家並み、そして雨に濡れたアスファルトといった、都市の片隅に宿る叙情を好んで描きました。その技法は、水性木版による柔らかな滲みと、細部まで揺るぎなく刻まれた彫りの線が特徴です。彼の描く風景には、しばしば電信柱や看板、洗濯物といった生活の断片が描き込まれますが、それらは決して雑多な印象を与えず、むしろそこに住む人々の体温を感じさせる温かな要素として機能しています。
特に雨と坂道の表現は、山高登の真骨頂と言えるでしょう。縦に細く彫られた雨の線や、濡れた地面に反射する光の階調は、木版画という硬い素材を使いながら、驚くほど湿潤で繊細な空気感を作り出しています。彼の作品は、かつての江戸の面影を残す東京が、近代的な都市へと変貌していく過程への「静かな挽歌」のようでもあります。

また、彼の版画は文学的な香りが強く、本や雑誌の表紙を飾ることも多くありました。山高登の版画は、声高に何かを主張するのではなく、ふと立ち止まった時に感じる「時間の堆積」を一枚の紙に定着させています。そのどこか懐かしく、切ない風景は、都会に生きる人々の孤独を優しく包み込むような、時代を超えた癒やしを与え続けています。