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土屋 光逸

土屋光逸は十代の頃に清親に入門し、約19年間も師のそばで内弟子として研鑽を積みました。そこで培われたのは、清親が得意とした光と影の表現、すなわち「光線画」の真髄でした。光逸は壮大で情緒的な日本の風景を、巧みな色彩感覚で描き出しました。

彼の真骨頂は、夕暮れ時や夜の帳が降りる瞬間の、淡い光が景色を包み込む情景にあります。代表作である「東京風景」のシリーズでは、月明かりが水面に落とす揺らぎや、軒先から漏れるランプの暖かな灯火が、職人による極限のぼかし技術によって幻想的に表現されています。本格的に新版画の世界に身を投じたのは60歳を過ぎてからという遅咲きの絵師でしたが、その円熟した筆致は、日本の古い良き風景をただ懐かしむだけでなく、近代的な透明感を持っていました。

光逸の作品には、静まり返った空気の中に自然への深い敬意が満ちています。雨の日の静寂や雪の夜の冷たさといった、目に見えない気配までをも紙の上に定着させるその技法は、まさに清親の光線画を昭和という時代に合わせて見事に昇華させた結果と言えるでしょう。
土屋 光逸